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岡崎進(教授) 分子研リポート2001 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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204 研究系及び研究施設の現状

電子計算機室

岡 崎   進(教授)

*)

A -1)専門領域:計算化学、理論化学、計算機シミュレーション

A -2)研究課題:

a) 溶液中における溶質分子振動量子動力学の計算機シミュレーション b)量子液体とその中での溶媒和に関する理論的研究

c) 超臨界流体の構造と動力学

d)生体膜とそれを横切る物質透過の分子動力学シミュレーション e) タンパク質の機械的一分子操作の計算機シミュレーション

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 分子振動緩和など,溶液中における溶質の状態間遷移を含む量子動力学を取り扱うことのできる計算機シミュレー ション手法の開発を進めている。これまですでに,調和振動子浴近似に従った経路積分影響汎関数理論に基づいた 方法論や,注目している溶質の量子系に対しては時間依存のシュレディンガー方程式を解きながらも溶媒の自由度 に対しては古典的なニュートンの運動方程式を仮定する量子−古典混合系近似に従った方法論を展開してきてい るが,これらにより,溶液中における量子系の非断熱な時間発展を一定の近似の下で解析することが可能となった。 特に前者の方法では個々の多フォノン過程を分割して定量的に表すことができ,これに基づいてエネルギーの溶媒 自由度への散逸経路や溶媒の量子効果などを明らかにしてきた。また後者の方法では個々の溶媒分子の運動と溶質 量子系とのカップリングを時間に沿って観察することができ,液体に特徴的な緩和機構について解析してきている。 b)常流動ヘリウムや超流動ヘリウムなど量子液体の構造と動力学,そしてこれら量子液体中に溶質を導入した際の溶

媒和構造や動力学について,方法論の開発を含めて研究を進めてきている。前者については交換を考慮しない経路 積分モンテカルロ法や積分方程式論,そして経路積分セントロイド分子動力学法などを用いて解析を進め,ヘリウ ムの動的性質や溶媒和構造などを明らかにしてきている。一方,後者に対しては粒子の交換をあらわに考慮した上 で,溶液系の静的な性質の研究に適した形での経路積分ハイブリッドモンテカルロ法を提案しこれまでにすでに超 流動を実現した。また,動的な性質についても交換を精度よく取り入れた方法論について手法の実用性も考慮しな がら検討を進めてきている。

c) 超臨界流体は温度や圧力を制御することによって溶質の溶解度を可変とすることができ,物質の分離抽出のための 溶媒として注目される一方で,超臨界水など安全で効率のよい化学反応溶媒としても興味を集めている。この超臨 界流体の示す構造と動力学について大規模系に対する分子動力学シミュレーションを実施し,臨界タンパク光の発 生に対応する強い小角散乱や臨界減速などを良好に再現した上で,流体中に生成されるクラスターの構造と動力学 について詳細な検討を行ってきている。そこでは,流体系においても液滴モデルがよく成り立つことやクラスター のフラクタル性,パーコレーション等について実証的に検証してきた。特にクラスターの生成消滅の動力学につい ては,従来のイジングモデル等ではほとんど議論することのできなかったところであるが,本研究における一連の シミュレーションによりその特徴を明らかにすることができた。一方で,溶解度に大きな関係を持つ水の誘電率に

(2)

研究系及び研究施設の現状 205 ついても,常温常圧から亜臨界,超臨界状態にわたって水の分極を取り入れた分子モデルに基づいて分子論的な立 場から検討した。

d)水中において異方性を示し,かつ不均一系を構成する脂質二重層膜に対し,自然で安定な液晶層を良好に再現でき る分子動力学シミュレーション手法について検討し,これに基づいて膜の構造や動力学の分子論的解析を行ってき た。その中で特に,水中の膜の大きな面積ゆらぎや水−膜界面に生成される電気二重層,そして界面での異方性を 持った水の誘電率などについて明らかにし,その微視的な描像を解明してきた。一方で,生理活性物質の透過や吸収 などに関しても計算を展開し,膜を横切る低分子の透過に際しての自由エネルギープロフィールによる解析等を進 めてきた。さらには,単純なイオンチャンネルを埋め込んだ系に対しても予備的な分子動力学シミュレーションを 試みている。

e) 非接触型原子間力顕微鏡のカンチレバーの機構を利用して試みられつつあるタンパク質の機械的延伸実験に対応 した分子動力学シミュレーションを行っている。これにより,延伸実験で測定される力のプロフィールの分子論的 な意味を明らかにするとともに,水中でのタンパク質のコンホメーション変化に際しての自由エネ ルギープロ フィールを得る。現時点ではポリペプチドのα-ヘリックスとβ -ストランド間の転移について解析を進めているが, 今後β-シートとβ-ストランド間の転移,さらにはより複雑なタンパク質の高次構造の破壊などについても解析す る。そして,これらをさらに展開し,タンパク質の安定構造や準安定構造を人工的に積極的に生成させ得る機械的な 一分子操作の可能性について検討を進める。

B -1) 学術論文

T. TERASHIMA, M. SHIGA and S. OKAZAKI, “A mixed quantum-classical molecular dynamics study of vibrational relaxation of molecule in solution,” J. Chem. Phys. 114, 5663 (2001).

K. SHINODA, S. MIURA and S. OKAZAKI, “A molecular approach to quantum fluids based on a generalized Ornstein- Zernike integral equation,” J. Chem. Phys. 114, 7497 (2001).

S. MIURA and S. OKAZAKI, “Path integral molecular dynamics for bosonic oscillators,” J. Mol. Liq. 90, 21 (2001). W. SHINODA and S. OKAZAKI, “Molecular dynamics study of the dipalmitoylphosphatidylcholine bilayer in the liquid crystal phase. An effect of the potential force field on the membrane structure,” J. Mol. Liq. 90, 95 (2001).

K. SHINODA, S. MIURA and S. OKAZAKI, “Isotope effect on the structure of quantum fluids : A generalized Ornstein- Zernike analysis,” Chem. Phys. Lett. 337, 306 (2001).

N.YOSHII, S. MIURA and S. OKAZAKI, “A molecular dynamics study of dielectric constant of water from ambient to sub- and supercritical conditions using fluctuating-charge potential model,” Chem. Phys. Lett. 345, 195 (2001).

K. SHINODA, S. MIURA and S. OKAZAKI, “A generalized Ornstein-Zernike integral equation study of atomic impurities in quantum fluids,” J. Chem. Phys. 115, 4161 (2001).

S. MIURA and S. OKAZAKI, “Path integral molecular dynamics based on pair density matrix approximation : An algorithm for distinguishable and identical particle systems,” J. Chem. Phys. 115, 5353 (2001).

T. MIKAMI, M. SHIGA and S. OKAZAKI, “Quantum effect of solvent on molecular vibrational energy relaxation of solute based upon path integral influence functional theory,” J. Chem. Phys. 115, 9797 (2001).

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206 研究系及び研究施設の現状 B -3) 総説、著書

S. OKAZAKI, “Dynamical approach to vibrational relaxation,” Adv. Chem. Phys. 118, 191-270 (2001).

岡崎 進 , 「分子動力学法―動く分子模型」, 化学と教育 49, 714-717 (2001).

B -6) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

分子シミュレーション研究会幹事(1998- ). 電気化学会普及委員会委員(1998- ). 学会の組織委員会

第 15 回分子シミュレーション討論会実行委員(2001).

B -7) 他大学での講義、客員

東京大学教養学部 , 「熱力学」, 1998年 4月 -.

東京工芸大学工学部 , 特別講義「計算機シミュレーションと化学」, 2001年 11月 14 日 . 東京工業大学大学院総合理工学研究科 , 併任教授 , 2001年 12月 -2002年 3 月 .

C ) 研究活動の課題と展望

溶液のような多自由度系において,量子化された系の動力学を計算機シミュレーションの手法に基づいて解析していくため には,少なくとも現時点においては何らかの形で新たな方法論の開発が要求される。これまでに振動緩和や量子液体につ いての研究を進めてきたが,これらに対しては,方法論の確立へ向けて一層の努力を続けるとともに,すでに確立してきた手 法の精度レベルで解析可能な現象や物質系に対して具体的に計算を広げていくことも重要であると考えている。また,電子 状態緩和や電子移動反応への展開も興味深い。

一方で,超臨界流体や生体系のように,古典系ではあるが複雑であり,また巨大で時定数の長い系に対しては計算の高速 化が重要となる。これには,方法論そのものの提案として実現していく美しい方向に加えて,計算アルゴリズムの改良やさら には現実の計算機資源に対する利用効率の高度化にいたるまで様々なレベルでのステップアップが求められる。このため, 複雑な系に対する計算の実現へ向けた現実的で幅広い努力が必要であるとも考えている。

*)2001年 10月 1 日着任

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